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大阪地方裁判所 平成6年(わ)2003号 判決

国籍

韓国(済州道北済州郡朝天面朝天里二七九八)

住居

大阪市生野区巽南三丁目六番四号

会社役員

安田こと安栄

一九四一年九月二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官濵田毅出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年六月及び罰金一億円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪府東大阪市衣摺二丁目一四番一三号において、「安田化成工業所」の名称でプラスチック成型加工業を営んでいた者であるが、自己の所得税を免れようと考え、

第一  平成二年分の総所得金額が一億九五二〇万九〇五二円であった(別紙1の1の修正損益計算書参照)のにかかわらず、実際の所得金額には関係なく、ことさら過少な所得金額を記載して所得税確定申告書を作成し、その所得の一部を秘匿したうえ、平成三年三月一五日、大阪市生野区勝山北五丁目二二番一四号所在の所轄生野税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が一三七一万五六〇〇円で、これに対する所得税額が二六〇万六〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額九二六八万〇五〇〇円と右申告税額との差額九〇〇七万四五〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ、

第二  平成三年分の総所得金額が三億七三六三万六六五〇円であった(別紙1の2の修正損益計算書参照)のにかかわらず、前同様の方法により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成四年三月一六日、前記所轄生野税務署において、同税務署長に対し平成三年分の総所得金額が一四九二万八一〇〇円で、これに対する所得税額が三〇九万一二〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億八一八九万三〇〇〇円と右申告税額との差額一億七八八〇万一八〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ、

第三  平成四年分の総所得金額が三億三二五五万八一一〇円であった(別紙1の3の修正損益計算書参照)のにかかわらず、前同様の方法により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成五年三月一五日、前記所轄生野税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が一五三一万五六〇〇円で、これに対する所得税額が三二八万六〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億六一三四万六五〇〇円と右申告税額との差額一億五八〇六万〇五〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れた。

(証拠の標目)

注・以下において、証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の

(1)  検察官に対する供述調書二通(四〇、四一)

(2)  大蔵事務官に対する質問てん末書三通(四八ないし五〇)

一  玄華宗の検察官に対する供述調書(三二)

一  安田子こと、邊子の大蔵事務官に対する質問てん末書三通(三三ないし三五)

一  安田晶子こと安晶子の大蔵事務官に対する質問てん末書(三六)

一  岸本美津子の大蔵事務官に対する質問てん末書三通(三七ないし三九)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一七通(記録二二-一号、同第二二-三五号(平成六年六月二八日付けのもの)、同第二二-六号、同第二二-三七号(平成六年六月二八日付のもの)、同第二二-五号、同第二二-三号、同第二二-一三号、同第二二-三六号(平成六年六月二八日付のもの)、同第二二-七号、同第二二-一〇号、同第二二-三八号、同第二二-三四号、同第二二-三二号、同第二二-一六号、同第二二-三五号(平成六年一〇月二七日付のもの)、同第二二-三六号(平成六年一〇月二七日付のもの)、同第二二-三七号(平成六年一〇月二七日付のもの))(九、一一ないし一六、一八、一九、二一ないし二三、二五、四四ないし四七)

一  大蔵事務官作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(八)

判示第一及び第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二二-二号)(二四)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(平成三年三月一五日に申告した所得税の確定申告書写についてのもの)(五)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成二年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(二)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書三通(記録第二二-八号、同第二二-一五号、同第二二-一二号)(一〇、二〇、二六)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成四年三月一六日に申告した所得税の確定申告書写についてのもの)(六)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成三年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(三)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二二-九号)(一七)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成五年三月一五日に申告した所得税の確定申告書写についてのもの)(七)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成四年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(四)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役と罰金刑を併科し、かつ、各罪につき情状により同条二項を適用し、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役罪については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年六月及び罰金一億円に処することとし、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、プラスチック成型加工を営んでいた被告人において、三年度にわたり、合計四億二六九三万円余もの所得税をほ脱した事案であり、ほ脱額自体高額であるうえ、ほ脱率も三年度平均で約九七・九パーセントと極めて高率な規模の大きな脱税事犯であって、申告納税制度の根幹をゆるがすとともに、国家の課税権を著しく侵害し、かつ、納税者の税負担の不公平感をも増大させかねない反社会的な犯行である。そして、被告人は、捜査段階の供述によれば、得意先の倒産により資金繰り難に陥った経験などから、将来の不況等万一の場合に備えて裏金を蓄積しようとの動機で、また、同業者の申告状況を聞き、「自分だけが正直に申告するのは馬鹿馬鹿しいという考え」もあって、多額の所得が生じていることを認識しながら、経理担当者らに作成させていた帳簿等を無視し、実際の所得額とも関係なく、前年の申告額に若干の上乗せをしたのみの、ことさら過少な所得額及び税額を虚偽申告して脱税したもので、動機、態様面のいずれにおいてもその納税意識の欠如を示す犯行でもあり、被告人の責任は相当重く、厳しい刑に処するべきであるとも考えられる。

しかし、他方で検討すると、本件における所得秘匿の方法は、いわゆるつまみ申告であり、被告人において積極的な所得秘匿工作などを行なったことは認められず、ほ脱所得の大半は被告人自身あるいは親族名義で預金して留保しているなど、その脱税の態様は比較的単純で、計画性も認められず、他の事案に比べてとくに悪質なものとまではいえないこと、また、被告人は、本件摘発後、自己の非を認めて事実関係を認め、法廷での反省態度も顕著であり、本件ほ脱に関し、既に延滞税、重加算税等の付帯税に加えて事業税等の地方税についてもその納付を済ませ、現在、事業を法人化し、新たに依頼した公認会計士、税理士の指導のもとに適正な経理処理及び税務申告に務め、今後の再過なきことを誓っていること、さらに、社会福祉事業のために大阪市等公共団体に相当額の寄贈、寄付を行なうなどし、社会への貢献を果たすことによる贖罪の努力も続けていることのほか、被告人の今日の地位を築くに至るまでの境遇及び生活状況、あるいは、現在の事業における立場、家族状況等の量刑上被告人に有利に考慮すべき事情又はしん酌すべき事情も少なからず認められる。

そこで、これら諸般の事情を総合考慮し、被告人を主文掲記の懲役及び罰金刑に処し、とくに、懲役刑については、社会内での被告人自身のさらなる改善努力に期待して、その刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田隆)

別紙1の1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙1の2

修正損益計算書

〈省略〉

別紙1の3

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

税額計算書

〈省略〉

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